マイクロフォンの話⑬
MTP 540 DM―LEWITTが挑んだ現代様式美
オーストリアのメーカーLEWITTのRoman Perschon氏が開発したマイクロフォンの数々は、紛れもなくその広告の謳い文句にある《21世紀に誕生した新たなるスタンダード》であることを、私は信じて已まない。
一つのブランドを売り込むための、手練手管のadvertisementというものを私は基本的に疑ってかかるのだが、試しに1本、MTP 540 DMを選んでみようという気になり、ヴォーカルのテスト・レコーディングをおこなってみた。
まず何より、ボディが材質的に堅牢でしっかりしていることを付け加えておく。400gという重さについては賛否が分かれるところだが、グリップが意外と細身なので、持ちにくい感じはしない。見栄えも悪くない。
肝心の音は?
これがまた驚いた。非常に繊細でヴォーカルのアタックをクリアに表現しつつ、余計なざらついた高域は見事に抑えられている。ヴォーカルの音圧を上げても、その性質は変わりない。
高域が美しいマイクロフォンは、比較的中低域がさっぱりのっぺりしている傾向があるのだが、MTP 540 DMは違う。とても中低域が柔らかく、えぐみを含んだ低音で歌っても、端正なかたちに整えてくれる。しかも深みがあって聴いていて飽きない。一般的なダイナミック型マイクロフォンとは、かなりサウンドのバランスが違うようだ。
ヴォーカル用の(その周波数帯域に特化した)マイクロフォンであることを理解していれば、別の楽器の使用も十分可能であろう。強いて言えば、SONY C-38Bのようなサウンドに似ており、汎用性は極めて高い。派手さと落ち着いた感じの両面をうまい具合にブレンドした、デジタル・サウンドのハイ・スペックにマッチする名品である。
§ Equipments Column